「保育士」と聞くと、女性が多いイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。
実際、かつて「保母さん」という呼び名が一般的だった時代には、男性保育士はほとんど存在していませんでした。
1985年に制定された男女雇用機会均等法により、男性の保育士も徐々に増えていきました。
そして1999年、資格名が男女のイメージに左右されない「保育士」へと改められました。
それから時が経ち、今では男性保育士の給料や職場環境、将来性についての“リアル”を知りたいと思っている方も多いのではないでしょうか。
私自身も男性保育士になりたての頃は、将来の姿が見えず、給料や人間関係、結婚して家族を養えるのかなど、不安に感じることがたくさんありました。
今回は、現役男性保育士（保育歴8年）である私が、保育士の給料、職場環境、そして将来像について詳しくお伝えします。
現在は結婚し、専業主婦の妻と子ども1人を養っています。
男性保育士としての将来像を知りたい方は、ぜひ最後までお読みください。
読み終えるころには、漠然とした不安が少し軽くなっているかもしれません。
男性保育士の割合・人数は？
| 登録者累計 | |||
| 男 | 女 | 計 | |
| 令和6年4月1日 | 98.676 | 1.799.343 | 1.898.019 |
※子ども家庭庁による「保育士登録者数」のデータ参照。
上記のデータによると、日本で働く保育士のうち男性の割合はまだ少なく、全体の1割未満にとどまっています。子ども家庭庁の資料によれば、保育士全体のおよそ5〜6％ほどしか男性がいないのが実情です。
つまり、10人の保育士がいればその中に男性が1人いるかいないかという程度の割合となります。
私はこれまでに5つの保育園で働いてきましたが、そのうち1園は男性職員が私ひとりだけでした。残りの4園では、私を含めて男性保育士が2人いる職場でした。
男性保育士の離職率は？
厚生労働省が公表している「令和６年賃金構造基本統計調査」（2025年3月時点）によると、女性保育士の平均勤続年数は8.7年であるのに対し、男性保育士は7.4年となっています。
また、保育士の平均年齢は女性が39.7歳、男性が3７歳とされており、男性は若いうちに離職している傾向がうかがえます。
男性保育士が少ない理由は？
なぜ、男性保育士はこれほど少ないのでしょうか？
現在、保育士全体の中で男性が占める割合はわずか数5～６％。つまり、10人中9人以上は女性という状況です。
その背景には、前述のような理由があります。
「保育士＝女性」という社会的イメージ
昔から、保育の仕事は「女性が担うもの」という固定観念が根強く残っています。
子どもの世話や家庭的なケアは女性の役割だという考えが根付いており、男性が保育士を目指しにくい雰囲気があるのです。
男性が少ないことで感じる不安や孤立感
いざ保育士になっても、職場で男性が自分ひとりというケースもあり、話し相手がいなかったり、相談しづらさを感じて辞めてしまう人もいます。
また、最初から「自分には向いていないかも」と考え、目指す前にあきらめてしまう人もいます。
社会的な偏見や誤解
男性が子どもと関わる仕事をしていると、不安に感じる保護者がいたり、誤解を受けることがあります。
「触れ方が不自然に見えないか」「トイレや着替えのサポートに問題はないか」など、他の職員以上に気を配らなければならない場面があるのも事実です。
給与や待遇の問題
保育士は、全体的に給与水準が高いとは言えない職業です。
家族を養い、生活を安定させたいと考える男性にとっては、収入面で不安を感じることもあります。
そのため、はじめから別の職業を選ぶ人も少なくありません。
東京都福祉局の「保育士有資格者全体の実態」によると、男性保育士の退職理由で最も多かったのは「給料が安いこと」でした。
こうした理由から、男性保育士はまだまだ少ないのが現状です。
私も何度も保育士を辞めようと思ったことがあります。
そして、一度は保育士を辞めて、一般企業に就職したこともありました。
しかし、保育の現場を離れてみて、「保育の楽しさ」や「子どもたちの成長を間近で見られる喜び」を改めて実感し、再び保育園に戻ってきました。
保育士を目指してみたいと考えている男性の方には、ぜひ挑戦してほしいと思います。
給料に男女差はある？
保育士の給与は、公立・私立を問わず、経験年数や勤続年数、役職などによって決まることが多く、性別によって大きな差が生じることは少ないとされています。
保育園によって基本給や住宅手当、処遇改善手当の額は大きく異なるため、園を選ぶ際には注意が必要です。
特に、住宅手当（最大8万円）やキャリアアップに伴う手当（勤続7年以上で毎月4万円の増額）は、支給額に大きな差が出るポイントです。
男性保育士のメリット
男性保育士には、女性保育士とはまた違った魅力や強みがあります。
ここでは、主な5つのメリットをご紹介します。
子どもにとって良いロールモデルになる
家庭や学校などで女性と関わる機会が多い子どもにとって、男性保育士は新鮮な存在です。
やさしさと力強さを兼ね備えた男性の姿は、子どもの成長に良い影響を与えるとされています。
女性の立場から見ても、男性保育士は子どもたちにとても人気があります。
特に外遊びの際、男性保育士が追いかけっこやサッカーなどをしていると、子どもたちが次々と集まってきました。
子どもたちにとって、憧れの存在なのでしょうね。
力仕事が得意
男性保育士は、力仕事を必要とする場面で頼りにされることが多くあります。
たとえば、行事の準備や後片付けなど、体力が求められる業務では特に活躍することができます。
もちろん、力仕事は保育士の仕事の一部にすぎませんが、体格や体力を活かしてスムーズに作業が進む場面も多いため、男性保育士がいることで職場全体の負担が軽減されるケースもあります。
行事の準備など、力仕事には率先して取り組んでいます。
一方で、私はピアノが得意ではないため、伴奏は得意な職員にお願いしています。
このように、性別に関係なく自分の得意分野を活かせる職場は、とても働きやすい環境だと感じます。
防犯面で期待される
男性保育士は、防犯面でも頼りにされる存在です。
体格や落ち着いた雰囲気が不審者への抑止力となるほか、緊急時にも冷静に対応できる安心感があります。
子どもたちの安全を守るうえで、男性保育士の存在は心強い役割を果たしています。
防犯面への配慮から、他クラスの遠足の引率を任されることもよくあります。
男児のトイレのサポートができる
男性保育士は、男の子のトイレのサポートができる点でも貴重な存在です。
特にトイレトレーニングの時期には、立って用を足す方法や身だしなみの整え方など、同性の立場だからこそ自然に教えられることがあります。
男性保育士がいることで、散歩や遠足などで公共施設を利用する際に、男児のトイレのサポートを安心して任せられるため、とても助かります。
職場の雰囲気がなごむ
女性だけの職場よりも、男性が一人いるだけで職場全体の雰囲気が和らぎます。
私自身、公立保育園で働いていた際に、男性保育士が在籍していたときと、異動でいなくなったときの両方を経験しましたが、職場の雰囲気が大きく変わるのを実感しました。
男性保育士デメリット
男性保育士にはたくさんの魅力がありますが、一方で悩みや課題も少なくありません。
ここでは、よくある4つのデメリットをご紹介します。
職場に男性が少なく、孤立しやすい
男性保育士はまだまだ少数派なので、同じ立場で話せる仲間が少ないと感じる人もいます。
ちょっとした悩みを相談しづらいことも、働きにくさにつながる原因です。
私が勤務した５園のうち、1園では職場に男性は私ひとりだけでした。
女性職員との関係づくりには少し時間がかかることもありますが、同じ思いを持って働くうちに、徐々に打ち解けることができます。
打ち解けるまでは、悩みを相談できず、孤独を感じることもあるかもしれません。
どうしても職場の人間関係に悩んでしまう場合は、思い切って転職し、新しい環境で人間関係を築くのも一つの選択肢です。
周囲の目が気になることもある
特に小さな子どもの着替えやトイレの介助など、デリケートな場面では気を使うことが多いです。
保護者や同僚から誤解されないように、いつも慎重に行動しなければならないことがあります。
キャリアや収入面での不安
保育士全体の課題でもありますが、給与が高くないことや、キャリアアップの道が限られていることに不安を感じる男性もいます。
家族を養う立場になると、将来を考えて転職を考えるケースもあります。
収入面は、園によって大きく異なります。
ちなみに、私が就職した園での収入についてざっくりお伝えすると以下のようになります。
1園目・2園目は数か月しか勤務していなかったため、参考にはなりませんでした。
3園目：年収約350万円
4園目：年収約300万円＋家賃全額補助（6万円×12か月）
5園目：年収約4５0万円（キャリアアップ手当 月4万円を含む）
キャリアや収入面に不安がある場合は、就職活動の際にキャリアアップ制度の有無、各種手当（住宅手当など）、福利厚生、年収などをしっかり確認することをおすすめします。
面接時に自分で聞きづらいと感じる場合は、転職エージェントを活用するのも一つの方法です。
男性保育士の受け入れに消極的な園もある
園によっては、男性保育士の採用に消極的なところもあります。
理由としては、「着替えやトイレの補助などで保護者からの理解が得られにくい」「これまで女性ばかりの職場だったため、体制を整えるのが難しい」といった事情があるようです。
就職活動中、園の求人を見て電話をかけたところ、「男性保育士は採用していません」と断られたことが3回ありました。
その点、転職エージェントを利用すれば、「男性保育士歓迎」の園を紹介してもらいやすく、自分で探すよりも早く見つかる可能性があります。
保育士に向いている男性の特徴とは？
保育士は子どもと関わるやりがいのある仕事ですが、「自分に向いているのかな？」と不安に思う男性も多いかもしれません。ここでは、保育士に向いている男性の特徴を4つご紹介します。
子どもが好きで、やさしく接することができる人
子どもと一緒に遊んだり、話を聞いてあげたりするのが好きな人は、自然と子どもたちからも好かれます。
やさしさと忍耐強さがあると、より安心して働けます。
体力に自信がある人
保育の仕事は、外遊びやお散歩、抱っこなど、意外と体力を使います。
体を動かすことが好きな人は、保育の現場でも活躍しやすいです。
保育士の仕事は体力勝負な一面もあります。
特に男性保育士には、「鬼ごっこしよう」「サッカーしよう」「リレーしよう」など、子どもたちからアクティブな遊びのリクエストが多く、なかなかハードです（笑）。
周囲としっかりコミュニケーションがとれる人
保育士はチームで動く仕事。
他の先生や保護者との信頼関係を築くためにも、明るく話せる力は大きな強みになります。
私もそうですが、男性には口下手な人も多いですよね。
子どもとは自然に話せても、保護者や同僚との会話は少し苦手という方もいるかもしれません。
それでも、仕事を円滑に進めるうえでコミュニケーションは欠かせないものです。
子どもの成長を喜べる人
小さな「できた！」を一緒に喜べる人は、保育のやりがいを深く感じられます。
子どもの変化に気づけるやさしい目を持つことも大切です。
保育士にとって最大のやりがいは、子どもの成長を間近で感じられることです。
大変な仕事ではありますが、その喜びがあるからこそ頑張れます！
男性保育士に向いている人の特徴を4つご紹介しました。
もちろん、最初から完璧である必要はありません。
大切なのは、「子どもと関わりたい」「成長を見守りたい」という気持ちです。
その思いがあれば、保育士としての第一歩を踏み出すことができますよ。
男性保育士のキャリア
男性保育士として働き始めたあと、どんなキャリアを築いていけるのでしょうか？
ここでは、男性保育士の主なキャリアパスを３つご紹介します。
保育士キャリアアップ制度を受ける
「保育士等キャリアアップ研修」を受講することです。
この研修は、保育士の専門性を高めることを目的に、2017年から始まった制度です。研修の分野は以下の8つに分かれています。
- 乳児保育
- 幼児教育
- 障害児保育
- 食育・アレルギー対応
- 保健衛生・安全対策
- 保護者支援・子育て支援
- 保育実践
- マネジメント
これらの研修を修了すると、「職務分野別リーダー」「専門リーダー」「副主任保育士」などの役職に就くことが可能になります。
また、職務分野別リーダーには月額最大5,000円、専門リーダーや副主任保育士には月額最大4万円の処遇改善手当Ⅱが支給されることもあります。
研修修了の実績は転職後も有効なため、将来的にキャリアアップを目指す男性保育士にとって、ぜひ受講しておきたい制度です。
職場によっては、職務改善手当Ⅱを申請していない園もあります。
そのため、キャリアアップ研修の受講を検討している保育士は、面接の際に事前に確認しておくことが大切です。
自分で直接確認するのが難しい場合は、転職エージェントを利用し、担当アドバイザーに確認してもらうと安心です。
公立保育園（保育所）で働く
公立保育園では、基本的に自治体の職員（公務員）として採用されます。
そのため、年齢や経験年数に応じて給与が段階的に上がる「昇給制度」が整っており、安定したキャリアを築きやすい環境です。
男性保育士にとっても、安心して長く働ける職場としておすすめできます。
また、主任保育士や園長などの管理職を目指すことも可能です。
「長く安定して働きたい」「公務員として保育の現場に関わりたい」と考えている方にとって、公立保育園はキャリアアップを目指しやすい選択肢のひとつと言えるでしょう。
受験に年齢制限を設けている自治体もあるため、募集要項を必ず確認し、計画的に受験を進めましょう。
現場経験を活かして独立・起業も可能
向上心のある方は、独立して保育園を開設したり、ベビーシッター事業などで起業するのも良いでしょう。
現場での経験があれば、保育士の気持ちを理解しやすく、事業を始めるうえでも大きな強みとなります。
まとめ
男性保育士はまだ少数派であるため、周囲と打ち解けるまでに時間がかかったり、誤解されないように配慮が必要だったりと、決して楽な環境とは言えません。
しかしその一方で、力仕事や外遊びでの活躍、防犯面での安心感など、男性ならではの強みを発揮できる場面もたくさんあります。
子どもたちや保護者との信頼関係を丁寧に築いていけば、職場での評価も高まり、やりがいを感じながら働くことができます。
環境に慣れるまでは大変なこともありますが、チャンスはしっかりと用意されている仕事です。
男性保育士の将来が見えず不安に感じる方も多いと思います。
私自身も転職を繰り返し、ようやく結婚し家族を養える職場に出会えました。
今の職場で将来が見えないと感じるなら、転職によって新たな可能性が開けるかもしれません。
コメント